拓の旅行記・南フロリダその2


3日目



昨日、夕食を終えてホテルに戻る途中の店に
「キーウェストで1番美味しいキーライムパイ」の看板が出ていた。
小さな屋台のような素人くさい造作の店で
どう見ても観光客相手、固定客はいそうにない。
「キーウェストで1番」は絶対に誇大広告不当表示だと思うけど
こんないかにも安っぽい駄菓子的なパイの方が
むしろこの土地本来の本物の味を保っているのかもしれないし
レストランの上品な味と食べ比べてみようと1切れ買ってきた。
が、夕食で満腹で結局ゆうべは食べることができず
今朝、朝食代わりにキーライムパイ。
どっしり重く、こってり甘い。昨日のとは正反対の美味しさだった。
つん太は確実にこっちの方が好きだろな。
レストランのパイの半額。安上がりな彼。



今日は曇天。ときどき小雨もぱらつくあいにくの空模様。
折りたたみ傘の前田君だけはケロケロ嬉しそうだけど。
こんな日に灰色の海で遊んでも寒いしつまらないし
とっとと次の目的地、エバーグレイズに向かうことにした。
フロリダ半島を目指し、一昨日きた道を逆戻り。
島を出る前に地元のローカル・スーパーに寄り道して
由里姉ちゃんの趣味の「ご当地ラーメン」探しに付き合うけど
めぼしい物は何もなし。
水遊び用品や日焼け止めの充実ぶりが特徴的な店だった。

天気はどんどん悪くなる。
せっかくの7マイルブリッジも、ぼんやり霞んで先が見えない。
途中、右だっけ(略)が「地元だから道よく知ってる」と言うから
仕方なしにナビ・ゲーター席を譲ってみたら
案の定「右だっけ〜?左だっけ〜?」と要領を得ない道案内。
やっぱりカーナビ・ゲーターは僕じゃなくっちゃね。



フロリダ半島に入ってお昼を食べて、一路、本日の宿泊地エバーグレイズを目指す。
エバーグレイズ国立公園は、フロリダ半島の南端にある広〜い広〜〜〜い湿地帯。
国内でここ1ヶ所だけが、野生のアリゲーターさんとクロコダイルさんが両方住んでいるんだ。
公園に1歩入るともうワニさんがいて、思わず「わあ、ワニだワニだ」と騒いでしまうけど
5m、10mと進むとあっちにもこっちにも佃煮にして売る程のワニさんが転がっているから
次第にワニさんなんかどうでも良く思えて来る…ってくらいにワニさん天国な場所なんだって。
「それって、奈良公園の鹿みたいな感じ?きっと鼠の干物、10匹1束1ドルとかで売ってんだぜ。
そんでそれ投げるとワニがぺこぺこお辞儀するんだ」って
由里姉ちゃんはまた訳判んない妄想モードだし。

公園入り口の案内所で地図をもらって、いよいよドキドキ・ワクワクのご入場。
今晩泊まる予定の公園の1番奥・フラミンゴ地区のロッジまでは
直行すれば約38マイル≒60kmのほぼ1本道だけど
途中あちらこちらに散策用の小道が設けられていて
さらに貸しボートや貸しカヌーで沼地や池や湖に漕ぎ出すこともできる。
全部に寄り道していたら、1泊2日じゃとても足りそうにない。
案内所のオバサンは「1ヶ月いても足りない」と言っていた。
仕方ない、船が必要な場所は諦めて
車と人間の足で行ける、ワニさんのいそうな場所だけを重点的に回ることにする。
地図で見ると、奥に行けば行くほど池や湖が多く、じめじめ湿った土地になっていくようだ。
公園に1歩入るともうワニさんっていうのは誇張だな。ならば、勿論、先を急ぐ!



ロッジの部屋で荷物を降ろし、案内所でもらった冊子を研究する。
それによるとクロコダイルさんはロッジの近くの船着場周辺、
アリゲーターさんは公園中どこでも至る所で会えるそうだ。
まずは宿から10kmほど公園入り口側に戻って「West Lake」。
ここにはワニさんの姿なし。
さらに8kmほど入り口側に進んだ地点の「Nine Mile Pond」。
池の畔に車を停めて水面を見ると、何か黒い物が浮かんでいる。
ワ、ワニさん!?
ワニさんを脅かさないようにそ〜っと車をおりて
抜き足刺し足、水辺に近づいてみる。
双眼鏡なんか使うまでもない、至近距離のワニさん。
わああ、こんにちは。
僕は拓ちゃんです、日本から来ました、どうぞよろしく。
感動しすぎてちょっと取り乱し気味の僕。



所変わって、ここはロッジ近くの「Eco Pond」。
ここではのぼが別の意味で大興奮中。
「鳥さん…鳥さんが大勢…ああ、霞網!」
緑の中に点々と見える白いのが、全部鳥なんだ。
「丸焼き…唐揚げ…焼き鳥…棒々鶏…
ケージ飼いじゃないから、さぞかし…ああっ」
…由里姉ちゃん、何でのぼなんか連れてきたの?
彼は小さな池の回りを1周する小道を歩く間、
鶏肉料理の名前をうわごとみたいに並べ立てていた。

右だっけ(略)は僕たちの散策には付いて来ず
ロッジの部屋でずーっと窓の外を見ていたらしい。
窓の外、ほんの数十メートル先は生マナティの住むフロリダ湾。
マナティが窓の下に這って来るのを楽しみにしていたようだけど
マナティって、陸にあがる…の??



夕飯は、ロッジ近くにある、公園内唯一のレストランで。
独占企業だから味やサービスは期待しない方がいいと覚悟していたら
予想に反し案外まともな味だった。
M兄ちゃんの「シーフードのフライ盛り合わせ」に
昨日食べ損ねたコンク貝フライも入っていた。
僕と由里姉ちゃんも1口ずつ分けて貰ったが
某「歩き方」に書いてあった通り、さつま揚げそっくりな味。
醤油と白い米の飯が欲しいと由里姉ちゃんが言った。
デザートは、昨夜と今朝に続いてキーライムパイ。
ここのパイにはメレンゲが乗っていない。
ここのも悪くはないけれど、本場の島で食べたパイの方が美味しかったな。

レストランの下は土産物屋、
由里姉ちゃんはここからワニぬいさんを連れ帰る予定だったみたいだけど
やっぱり僕以上にかわいいワニぬいさんはいなかったので
ワニの絵の付いた磁石だけを買った。

人里を離れているから、夜は真っ暗。晴れていたら星が綺麗だったろうな。
南十字星、見たかったな。




4日目



朝早く、なんだか妙にすっきりした顔で起きてきた由里姉ちゃん。
「ベッドが、すごく良かった。
今まで泊まったいろんなホテルのベッドの中で
ボストンの高い高いホテルの次に寝心地よかったぞ!」
キーウェストのベッドは、スプリングが柔らかすぎて安眠できなかったらしい。
体重が重すぎる人は、柔らかいベッドは向かないんだよね。
…それはそうと、由里姉ちゃん、顔洗った?歯磨きは?
「昨日チェックインしたとき、フロントの掲示を見なかった?
ほら、装置の故障で水道タンクに外の汚れた水が混入した恐れがあるから
水は必ず3分以上煮沸殺菌してから飲め、って書いてあったろ。
顔洗うとき、口や鼻に生水が入ったら危険だから、今日はパスね」
「さっぱり」の定義が常人と違うようだ。



ようやくうっすら明るくなってきたロッジ周辺を、しばらく散策。
朝更し?な夜の動物に会えたらという願いは叶わなかったが
昨日はワニさんがいなかったWest Lakeの船着場に
今日は真っ黒な大きなワニさんが1匹いたので大感動。
ちょうどおじさん2人がボートで釣りに出ようとしていたところで
その行く手をワニさんが塞ぐ形になっている。
おじさんたちがボートのお尻を掴んで
ボートの先でワニさんの頭を恐る恐るつついてみても
ワニさん、悠然と構えて動きやしない。
いい図体のおじさんたちが、少しびびっているみたい。
ワニさんは強いもんねぇ。
ガブッって噛み付かれたら大変、大変。
僕たちは時間に追われて最後まで見届けられなかったけど
おじさん、無事に船出できたんだろか。



8時からは、ロッジ近くから出発のクルーズを申し込んである。
ワニさんのいる水路を通って湿地の奥の湖まで行く
大型ボート「ペリカン号」の「Backcountry Cruise」だ。
絶対確実にワニさんに会える保障はないとの注意書きはあるが
僕が来たのだから、ワニさんは必ず出てきてくれるだろう。

船の客は人間7人。切符なしの密航者が僕と、右だっけ(略)。
右だっけ(略)はフロリダ湾に漕ぎ出る外洋クルーズと勘違いして
生マナティに会えると思って来た様子。
こっちのクルーズのコースは淡水だから、マナティはいないよ。
マナティに会える外洋クルーズは10時出航だから
それに参加していると帰りの飛行機に間に合わない。
残念だけどまあ仕方ない、あきらめなよ。
第一、そっちにはあまりワニさんがいないし。

救命胴衣の場所と使い方の説明を聞いて、さあ出発。
でも、ワニさんのいる水路で、救命胴衣は役に立つんだろか?

船はそろりそろりとマングローブの森の水路を進む。
水路の両側に生えている木の話、木に止まっている鳥の話、
土壌の話に気候の話。
レンジャーのおじさんの話が全部判らないのが口惜しく勿体無い。
途中、何隻もの釣り船が僕たちを追い抜いていく。
「あの船の形はナンタラカンタラで、それはマナティを守るためだ。
船底がドータラでコータラだと、泳いでいるマナティが頭をぶつけて
そのショックでマナティが死んでしまうのである」
M兄ちゃんの鞄に入ってクルーズに付いてきた右だっけ(略)、
その話をきき、血の気をなくして顔面灰色。
すっぱり怯えてしまって、ついに鞄から1度も顔を出さなかった。
少し気の毒。

クルーズは約2時間。
いろいろな種類の植物を見たし、鳥や蝶もたくさん見たし
マングローブの茂みの中にはアライグマもいた。
(由里姉ちゃんはアライグマが大好きだから
きゃあきゃあ騒ぎまくって恥ずかしかった。)
嬉しいことに、数え切れないほど大勢のワニさんにも会えた。
(佃煮にできるほどではなかったけど…)
写真もたくさん撮れたから載せたいのに
由里姉ちゃんが「ワニの写真は1日1枚まで」とけちを言う。
つまらない。
由里姉ちゃんはアライグマの写真を載せたいんでしょ。
遠かったから、あんまり綺麗に撮れてないのに。
ワニさんの写真なら、もっといいのが沢山あるのに。

クルーズのみんなが一番盛り上がったのは
途中の小さな湖(coot bay)で、イルカの姿を発見したとき。
由里姉ちゃんは皆の「ドルフィン!」って叫びが聞き取れず
すーっと動く背びれを見て「鮫!?」とか言っていたけど(笑)

船長さんがそ〜っとそ〜っと船を動かして
イルカのすぐ側に船をつけた。
手を伸ばしたら触れそう。
画面中央、水面から出てる三角のひれ、判るかなぁ。
画面右端にしっぽ、左端に頭があるんだけど
…この写真では、判らないよね。
ワニさんの写真なら、もっとずっと鮮明なのが何枚もあるのに!

船着場にボートが戻って、船長さんたちに「さんきゅー」を言って船を下りようとしたら
レンジャーさんが、由里姉ちゃんに抱かれていた僕を見て
「そのかわいい子はワニさんか?何ってお名前だ?」と聞いてくれた。
由里姉ちゃんが「拓ちゃん!」と答えたのだけど
レンジャーさんには「Takuchan」は発音できなかった。
僕、世界に通用する名前が欲しいなあ。



船着場の近くの売店で朝昼兼用のサンドイッチを仕入れて
ロッジのフロントで温かいコーヒーを貰ってから
フラミンゴ地区にさようなら。
ガソリン、十分に入っているよね?
町まで60マイル位ガススタンドは無いよ。

ロッジから数マイル、「Coot Bay Pond」でハムサンドをぱくぱく。
池の回りのマングローブの根に、妙に馴染んでいる五右衛門。
のぼは、池の中の小魚が気になる様子。
「売店に…たも網、売ってましたね…戻って、買ってきましょ…」
そーんな時間、ないの。欲しい物は見つけた時にねだらなきゃ。
僕は生ワニさん遭遇記念ワニさんバッジ、しっかり確保したよ。



昨日の夜、案内の冊子を熟読して判ったことなのだけど
実は園内最大のワニさんの集落は
僕が昨日あっさり通過してしまった公園入口すぐ近くにあるらしい。
公園の門から2マイルの地点に左に入る脇道があって
そこを曲がって少し走るとワニさんが総会をしているのだそうだ。
1歩入るともうワニさんって情報は嘘じゃなかったのかもしれない。
地図で見ると、池も川も何もない乾いた地面のようなのだけど
半信半疑、駄目でもともと、帰りはそこに寄らなくちゃ。



わき道を見つけ、林の中の狭い車道を抜け、
ワニさんがいるというLoyal Palm Visitor Centerに到着。
湿地帯の上に尾瀬のような木の廊下があって
そこを歩いて行くと、わあ、ワニさんがいるわいるわ。
柔らかそうな緑の草の上には
十数匹の赤ちゃんワニさんがうじゃうじゃと固まっていた。
近くにはお母さんワニさんが1匹。
大きなお口をかぱーっと開けているワニさんもいたし
気持ちよさそうにお昼寝しているワニさんもいた。
これが全員、本物のワニさん。
餌付けなんかされていない、天然物のワニさんなのだ。
ぼくは大感激。僕はこの旅行に来て本当に良かったと思った。

このビジターセンターでは、沢山の種類の鳥も見ることが出来る。
あまりにも大勢のワニさんがいてワニさんを見飽きた人たちは
鳥の観察に夢中になっているようだった。
鳥なんかより、ワニさんの方がかっこいいのに、勿体無い。

せっかくかっこいいワニさんの写真がいっぱいあるのに
ここにそれを載せることを由里姉ちゃんが許してくれないので
本編とは別に「ワニさんスペシャル頁」を作成した。
ご覧下さい!



そうして大勢のワニさんに会って大満足の僕は、上機嫌でエバーグレイズ国立公園を後にした。
時間が僅かに残ったのでマイアミ市内のドライブもしたが
有名なマイアミビーチのある島まで行きながら
海岸より1本奥まった道をさーっと通り抜けてしまい、海岸は全く目にしなかった。

今回の旅行は非常に有意義な素晴らしい物であった。
次はぜひ、ナイル川のワニさんに会いに行きたい。
オーストラリアにあるワニさんの形のホテルにも泊まってみたいと願っているが
アメリカからみてオーストラリアは地球の裏側でとても遠いのでいつ行けるか判らなくて残念だ。
おしまい。



資料

SOBO CYCLE BICYCLE RENTALS(キーウェストの貸し自転車) 1台12ドル+税/24h。
もっと安い業者もあるはず。

エバーグレイズ国立公園 入場料:10ドル/乗用車1台(人数不問)。7日間有効。
大はカヌー(12ドル/1h〜50ドル/24h)・自転車(3ドル/1h〜17ドル/24h)から
小は釣竿、アイスボックス、双眼鏡まで
園内で必要な小道具は園内の貸し出し品でほとんど揃う。
但し、虫除けスプレーと虫刺されの薬(痒み止め)は必ず持参すること。
何しろ湿地だから非常に蚊が多い。
Backcountry Cruise 大人18ドル、子供12ドル(税込み)。
公園の公式サイト(英語)→ http://www.nps.gov/ever/





拓の旅行記・南フロリダ 1・2日目に戻る