拓の旅行記・南フロリダ
〜生ワニさんに会いに行こう〜
2003年早春

2000年暮れ、僕はミシシッピ川にワニさんに会いに行った
でも不運にもそのときワニさんは冬眠中で、会えなかった。
だから、りべんじ。
今度はフロリダのワニさんに会いに行くことにした。
亜熱帯で常夏のフロリダなら、2月でもワニさんは活動中だ。
ワニさんの大勢いる国立公園の近くには
景色が綺麗なドライブコースもあるので
車の道案内を天職とするカーナビ・ゲーターな僕は
当然、そちらにも行かねば気が済まない。
3泊4日のワニさんウォッチング・ドライブ旅行にいざ出発!




1日目



出発の朝、ダラス地方はみぞれ混じりの小雨。家を出た時点での気温は4℃だった。
一方、約2時間の飛行の末に降り立ったマイアミ空港は、いきなり夏。20℃を超えている。
暑い暑いと嬉しそうに文句を言いながら由里姉ちゃんが長袖シャツを脱ぐと、下にはTシャツが。
ダラスでは防寒用のばばしゃつ、マイアミでは外出着。なんと便利なTシャツだろう。
でもGパンと短パンの履ね履きは由里姉ちゃんの胴回りの都合で不可能だったから
下は暑苦しいGパンのままなのが辛い。

最大の楽しみ=ワニさんは最後に残しておいて、今日はドライブを楽しむ予定である。
マイアミから約160マイル≒260kmも離れた島キーウェストまで、海の上の橋を渡って行くのだ。
空港でレンタカーを借りて、さあドライブだ!


釣り禁止、しくしく/釣りOK、にっこり
…と思ったら、M兄ちゃんの制止がかかった。
マイアミ近郊にビスケイン国立公園というのがあるので
そこにも寄るのだと言う。
米国内の国立公園全制覇が目標?なM兄ちゃんとしては
例えどんな小さな国立公園だろうと
あと10kmの地点まで来て素通りはできないわけだ。
仕方がないから少しだけ付き合うことにする。

この公園は、海の公園。陸上にはほとんど何もない。
弁当用のテーブルと釣りをする桟橋が少しあるだけだ。
グラスボートで海に出ると珊瑚礁が綺麗らしいけど
珊瑚礁の海にワニさんはいないだろうから
僕はここには興味はない。
猫の「のぼ」は釣りをしたいようだけど
そんなの、キーウェストでもできるでしょ。
M兄ちゃんも、ここに「来た」から、これでもういいよね?
眠気覚ましに少しだけ散歩したら、さっさと車を出そう。



今度こそ本当にキーウェストを目指す。
フロリダ半島の先端から南西に連なる沢山の島々(keys)は
長短43本の橋で南端の島キーウェストまで結ばれていて
国道1号「Overseas Highway」が通してある。
だからキーウェストは「米国本土から車で行ける最南端の地」。
全米50州の本当の最南端はハワイ島だし
もっと言うなら南半球にもアメリカ領の島はあるけど
そこへは船や飛行機でないと行けないから。

フロリダ半島を離れて島の道を走り出すと
キーウェストまで約180kmは、ひたすらまっすぐの地図要らず。
カーナビ・ゲーターの僕は、少しつまらない。
僕は本当はもっと複雑な道が好き。


これはたくさんの島を結ぶたくさんの橋の中で最長の橋、
ドライブコースの1番の目玉の「7マイル・ブリッジ」。
正確には6.79マイル、10.9kmの長さらしい。
橋の両側は青い海、とても眺めがいいと本に書いてあったので
ドライブ好きな僕はずっと楽しみにしていた。
こうして橋の袂から眺めると
水平線に吸い込まれて消えて行く橋の姿は実に美しい。
が、ううん、いざ実際に車で走ってみると、海はよく見えない。
橋には当然欄干があって、それが結構高さがあるから
普通の車だと視界を遮られてしまう。
きっとこの橋は背の高い観光バスで走った方が楽しいと思った。
それでも、窓を大きく開けて風を切って走ると気ー持ちいい!
M兄ちゃん、どうしてオープンカーを借りてくれなかったの。
せめて屋根に窓がついてて開く車で走りたかった。



途中、事故車が道路をふさいでいた。迂回路は全くない1本道だから、完璧な大渋滞。
キーウェスト到着は予定より大幅に遅れてしまった。島内観光は明日までお預け。

夕食は、宿の近くのイタリア料理屋に入った。
…日本で山に行けば問答無用で「山菜そば」を頼む由里姉ちゃん。
店の脇に調理済み山菜の真空パックの段ボールが積んであるのを見ていても
そんなことお構いなしで山菜そばを頼む由里姉ちゃん。
海の町に来たからには、当然「シーフードの」フィットチーネを頼む。単純思考だな。
イカや小蛸や海老やカラス貝など沢山入っていて美味しそうではあったけど。

宿に戻って、由里姉ちゃんはあっという間にごーごーと眠り始めた。
M兄ちゃんが一生懸命運転している隣でくーすかくーすかたっぷり眠っていたのに
まだ眠り足りないんだろか。
いーくら朝4時に家を出たからって、ねえ。まだ8時だよ?
(しかも時差があるから、ダラス時間じゃ7時だし)




2日目



よく晴れて、今日も暑くなりそう。日差しは真夏のテキサス並に強い。
由里姉ちゃん、せっかく買って持ってきた日焼け止めの薬、塗らなくていいの?
あとで泣き喚いても僕、知らないよ。



由里姉ちゃんたち、今日は貸し自転車を借りて1日過ごすつもりらしいが
アメリカの自転車はアメリカ人の体型に合わせて少し大型で
しかも日本のママチャリとは形が違う、マウンテンバイクのようなつくりだから
短足日本人は乗り降りのときにフレームをまたぐのがかなり大変。
その上ブレーキが、アメリカじゃ一般的だけど日本じゃ珍しい
ペダルを逆漕ぎして止めるタイプなんだ。ハンドルのレバーは付いていない。
運動音痴の由里姉ちゃん、ちゃんと乗れるんだろか。
(いやあ。それが心配だからこそ、ここで自転車試してみたいんだ。
近々、新しい自転車を買う予定なんだけど、乗りこなせなかったら困るからさ
だから今日ここで試乗してみるのさ。 由里)

自転車屋は料金体系の異なる幾つかの店があるようだが
借りるにも返すにも便利だから、ホテルの前に出張所がある店にする。
フロントで聞くと、担当者は9時にならないと出勤してこないらしい。
今は8時、あと1時間。
それまでホテルの近くを歩いてみようか。
まずはこの島の人気ナンバー1・スポット、「サザンモスト・ポイント」。
「アメリカ最南端の碑」が建っているのだけど
立ち入り禁止の赤い網で囲われてしまっていて、肝心の碑に近づけない。
案内書の写真では、みんなこの碑に抱き付いて記念撮影しているのに。
仕方がないから網の手前に並んで記念写真。
でも、碑の後ろにいるおじさんが邪魔だよ。どいて欲しいな、ぷん。
おじさんの会話を聞いていたM兄ちゃんが言うには
どうやら彼らは碑のペンキ塗り直し作業をしようとしているらしい。
潮風にさらされて傷んだり、観光地だから当然記念の落書きされたり、
定期的にそういう補修は必要なのだろうけれど
僕たちが来る前に済ませておいて欲しかったよ、ぷん。
…ま、塗ったばかりでまだペンキの乾ききっていない碑の上に
それと知らずにべったり座ってしまううよりはマシだけど。



9時ちょうど、自転車屋がやってきた。
アメリカ人にしては驚くほど律儀に時間ぴったり。感心感心。
でも、自転車を借りたいと申し出ているM兄ちゃんを待たせたまま
日よけのパラソルを立てたり扇風機やラジカセを並べたりと出張所の設営を始めてくれて
結局は5分くらい待たされた。
やっぱりアメリカだ。

沢山の自転車の中に3台だけ混じっていた比較的小さめの自転車を貸して貰って
公道に出る前にホテルの駐車場を1周、ブレーキ操作を軽く練習してから、さ、出発!



まずは島の北西の端にある小さな港へ。
カリブ海クルーズの大きな船が3隻。
沖へ出てシュノーケリングする人たちを乗せた船や
グラスボートもこの辺から出航するようだ。
折角海に来たのだから由里姉ちゃんたちも何かすればいいのに
「ガラス越しの海じゃ水族館と変わらない」と言って
グラスボートを馬鹿にするM兄ちゃんと
「一歩間違えば命の危険も伴うスポーツだから
やるならまずハワイやグアムで日本語指導員に習わないと」と
ダイビングと勘違いしてシュノーケルを恐がる由里姉ちゃん、
結局、意見調整がつかず、ぼーっと船を眺めただけ。あ〜あ。

港を離れて、近くの町をうろうろ。
少し歩くと気付くけど、この島、矢鱈と野良ニワトリが多い。
レストランの庭でコケコッコ、屋根の上でもコケコッコ、
成鳥になりかけた雛たちも母鶏のうしろをヒョコヒョコ歩いている。
自称愛鳥家ののぼが嬉しそ〜に近寄って「一緒に…遊びましょ」
賢いニワトリは完全に無視。あはは。



由里姉ちゃんもだいたいブレーキ操作に慣れてきたようだけど
何故だか走りながらふらふらと道の左端に寄って行ってしまう。
ここはアメリカだから、車は右・人が左。自転車は車と同じ右側通行だよ。
反対走ってたら危ないよ。
「わ、判ってらぃ!私だって怖いんだ!でも、『自転車は左』が体に染み付いてるんだよぉっ。」
仕方ないからM兄ちゃんが先導、由里姉ちゃんは後ろに付いて行くことになった。
これなら何とか安心。



島の南の海岸に、沖に向かって伸びる桟橋があった。
眺めが良さそうだから、先端まで自転車で行ってみる。
思ったよりも長い桟橋で、あれ?
この突端は、今朝の「最南端の碑」より南にあるように見える。
地図を確認すると確かにこちらの方がより南だ。
すごいぞ、これは某『歩き方』にも載っていない重要情報だ。
桟橋は人工物だから自然の南端ではないのだろうが
そもそも人工建築の橋で繋いだ最南端の島なのだから
そんなことは気にしない、気にしない。
今度こそ本当の最南端で記念写真、かしゃ。
あ、この海は大西洋。90マイル先はキューバだよ。

海の水は澄んでいて綺麗。魚が泳いでいるのがよく見える。
「サヨリに似てる」とM兄ちゃん。
食べられるなら何でもいいと考えているのは、のぼ。



桟橋より少し東の海岸で、はだしになって波打ち際をちゃぷちゃぷ歩く。
気持ちはいいけど、足が濡れて砂が張り付き、すぐには靴を履けない。
砂浜の奥の東屋でポテチをつまみながら、足が乾いて砂が落ちるのを待つ。
「い〜天気だねぇ…お握り食べたいなあ」 由里姉ちゃん、無い物ねだり。



南東から東、北東、北と自転車で島をぐるりと1周して
朝最初に行った港に戻ってきた。ここで昼食。
由里姉ちゃんはまたも海の幸に固執して
「キーウェスト・ネイティブの魚」のサンドイッチ。
カジキに似た魚のフライ、レモン絞ったら美味しかったって。

食べながら、由里姉ちゃんが痒い痒いと両腕をかきむしる。
腕にちょっと触ってみたら、熱い。体温じゃなくて、熱い。
こりゃ火傷だな。だから日焼け止めを塗れと言ったのに。
仕方がない、日焼け止めを取りにいったん宿に戻ることにした。
ホテルに戻る途中、ヘミングウェイの家の前を通過。
表札の前で来た証拠に写真だけ撮る。
由里姉ちゃんは実はヘミングウェイを読んだことが無いらしい。
だから家の中には興味がないそうだ。情けない。



全身火傷の由里姉ちゃん。焼けた皮膚を冷やすため、シャワーを浴びる。
M兄ちゃんは昨日の運転疲れが回復しきってない様子。ベッドでくーすか。
風呂から上がった由里姉ちゃんまでそばでうとうとし始めてしまった。
高い飛行機代払ってここまで来たのに、昼寝?勿体無ーっ。
「いーんだよ、それがリゾートちゅうもんだ」
リゾートって、海辺で椰子の木陰でお昼寝するんでしょ。
安ホテルのベッドじゃ…。

双六のコマが「由里姉ちゃんたちが起きるまで休み」に止まってしまい(泣)
僕は1人、昨日コンビニで買ったゲータレードを飲む。
ゲータレードって、フロリダ大学のアメフト選手のために作られた物らしい。
だから一応、この州のご当地物。
チームの名前が「ゲーター(ワニさん)」だったことから付いたこの商品名、
だから僕にも少しは関係あるわけだよね。
本当はワニさん色の緑のゲータレードが欲しかったけど
昨日の店には無かったから、黄色で我慢。
ごくごく。おいし。



夕方になってようやく起きだしてきた由里姉ちゃんたち。
島の西端の有料海岸に、名物の夕日を見に行くことになった。
ここはアメリカの最南端なのと同時に列島の最西端でもあるから
西側には眺めをさえぎる物が何もない。
晴れた日なら年中いつでも水平線に沈む夕日を拝めるらしい。
海岸入り口の案内板によれば、今日の日没は6時5分。
まだ少し時間がある。
由里姉ちゃんたちは膝まで海に入って水遊び。
珊瑚の砕けた白砂は、神奈川の黒砂の海よりも足元が不安定。
由里姉ちゃんがよろけて服を濡らしそうで見ていてはらはらする。
のぼはカモメを眺めたり、海の中の小魚を追いかけたり。
少し沖には日没見物のクルーズ船が出てきた。
ときどき大砲の音が響くのは、カリブの海賊の演出だろか。

そんなことをしている間に、太陽はそんどん低くなっていく。
でも、空の色は青いまま、綺麗な赤い夕焼け色にならない。
都会を離れて空気が綺麗だとこうなるんだって。
でも、夕日は赤いと思っている僕には少し物足らない眺め。
やがてM兄ちゃんがふと思いついたようにサングラスをかけて
「サングラスかけると感動的だよぉ」と教えてくれた。
由里姉ちゃんのサングラスを借りてみたら、わぁお、
途端に空が赤くなって、確かにムード満点。
由里姉ちゃんは何やら嬉しそうに鼻歌を歌い始めた。
音程が相当狂っているけど、状況的に「黄金の日々」…かな?

そして、日没。
水平線近くに少し雲があって
最後の最後の瞬間が綺麗に見えなかったのは残念だけど
でも、素敵な夕日だった。



繁華街に向かって自転車を走らせていたら
国道1号線の「マイル0」…起点標識があった。
何百本もある国道の中で最も偉い立派な「1号」の出発点だ。
カーナビ・ゲーターな僕には聖地とも思える場所。
この国道1号をずーーーっと走っていくと僕の出身地・神奈川があって
最後は京都・大阪まで続いているんだよね。
(…それゆえに拓ちゃんの道案内は信用できないのだ。
そもそも1号線って主要国道じゃないし。 由里)

土産物屋でマナティの右だっけ左だっけ君をお迎えしてから、夕食。
この島の名物料理「コンク貝のフライ」を頼んだのだけど
手違いで運ばれてこず、由里姉ちゃんは少しむくれ気味。
でも、デザートのこれまた名物キーライム・パイが美味しかったから
由里姉ちゃんも簡単にゴキゲンに。
上のメレンゲが、口に入れるとすーっと溶ける。
甘すぎず、ふぅわり軽く上品で、大人の味。
つん太にも食べさせたいけど、彼はもっと下品に甘い方が喜ぶだろな。



拓の旅行記・南フロリダ 3・4日目に続く