ありがとう。


ありがとう。
そして、ごめんなさい。
つん太と仲良くしてくださったお友達の皆さん、
ごめんなさい。
本当に、ごめんなさい。
つん太は今、ここに、いません。
私たちの年末年始の旅行先、テキサス州エルパソの
Scenic driveという観光道路の展望台で
私の大事な大事なつん太は、消息を絶ちました。
現地時間で2002年1月1日午前9時40分(日本時間2日午前1時40分)頃でした。





つん太は、3泊4日の今回の旅を、異様なほどに楽しんでいました。
「楽しいねえ由里姉ちゃん」
「M兄ちゃん、連れてきてくれてありがとう!」
何度も何度もそんな言葉を聞きました。
そして、旅の最終日、1月1日。
3日前に行ってきたメキシコの町を望むその展望台で
つん太は、メキシコで食べたプリンを思い出していたようです。
「あっちはフラン(スペイン語の「プリン」)の国だねえ」
「また食べに行きたいねえ」
何度も何度もそう繰り返していました。そして。


「ほら、もう行くぞ」私はつん太を上着の右のポケットに入れた…はずだった。
車に乗って、ベルトを締めて、走り出すときに
私は「つんちゃん、いるね」と声を掛けながらポケットを叩いた…はずだった。
ポケットは、いつものように、つん太の分のふくらみがあった…はずだった。
「はず」なんて、不確かなことは言いたくない。
私は絶対にポケットにつん太を入れ、声を掛けて所在を確かめた。
なのに、それなのに、
それから約20分後、メキシコ国境のリオグランデ川にそった道を走る車の中で
「川の向こうには、フランがあるんだね」
つん太の声を聞いたような気がした私が
つん太に窓の外をもっとよく見せてやろうとポケットに手を入れたら
私のつん太は、いなかった。
車を停めて、探し回った。
胸のポケット、シャツのポケット、Gパンのポケット。
肩掛け鞄の中。他の子たちが入っているリュックの中。
座席の下、シートの隙間、肘掛の下の小物入れの中。
つん太は、どこにもいなかった。
さっきの展望台に引き返した。
あそこで写真を撮った後、私たちは車を降りていない。窓も開けてない。
つん太が私たちとはぐれたとしたら、あの場所の他に考えられなかった。
でも、そこにもつん太はいなかった。
風に飛ばされたかもしれないから、あたり一帯を広く探した。
でも、つん太はいなかった。つん太の赤いバンダナも見えなかった。
つん太は、姿を消してしまった。



つん太、あんなにフランを食べたがっていた。
フランを食べるために、単身、メキシコに飛んでしまったのかもしれない。
この展望台にいれば、次から次へと観光客がやってくる。
ほとんどの観光客は、国境を越えてメキシコにも行くはずだ。
だから、誰か親切そうな観光客に頼み込んで
メキシコに連れて行ってもらったのだろう、きっと。
今頃は、たくさんのフランに囲まれて、幸せにしているだろう。
つん太は、私を離れて行ってしまった。自分の意志で。
そう…信じたい。
つん太に捨てられてしまったことは、保護者として堪らなく悲しいし、情けないけれど。





馬鹿なつん太。
フラン=プリンくらい、頼まれれば、いつだって作ってやったのに。
あんな火を強めすぎて穴ぼこだらけになった出来損ないのプリンでなく
もっと美味しいとろけるようなプリン、毎日だって作ってやったのに。
家の冷蔵庫には、つん太が欲しがって買った冷凍のピーカンパイが入っていた。
鏡開きに甘く煮るつもりで小豆も1袋買ってあった。
クリスマスにサンタさんが持ってきてくれたラムネ菓子。
ハロウィンに用意したチョコレートの残り。
メキシコで買ってきたオレンジの皮の砂糖漬けもまだちろと舐めただけだったのに。
つん太、そんなにフランが食べたかったのか。
貧しい国・メキシコに行ったら、もうインターネットもできないだろう。
仮に裕福なメキシコ人家庭に保護されたとしても
パソに日本語フォントがインストールしていなければ
全て意味不明の記号の羅列になってしまう。
つん太、それでもフランが食べたかったのか。
ネットの向こうのお友達よりも、フランの方が大事だったのか。
お前の兄さんの雅之や、姉さんの柚子や、全部で80匹のうちの仲間よりも、
フランの方が良かったのか。
つん太の馬鹿!



つん太、
お前はきっと今、幸せにしているだろう。
でも、もしフランに飽きたなら、いつでもダラスに戻っておいで。
飛行機で1時間40分の距離、小さなお前が自分で歩いて来るには余りに遠いけれど
飛行機に密航して、それとも国道20号を走る車をヒッチハイクして
いつでも、私のポケットに帰っておいで。
つん太、私はいつまでもいつまでもここで待ってるから。

仮に、長旅の途中で疲れ果ててぼろぼろになったなら
(そう、既につん太は愛されすぎて、背中の布地が透けるように薄くなっていた。
少しでも雨風にさらされれば、つん太は確実につん太の体を失ってしまう。)
つん太、せめて魂だけでも、私のところへ戻っておいで。
トリスさんちのぐるっぺさんのように、魂だけでも、私のそばにいて欲しい。
それとも、新しい肉体を手に入れるだろうか。
体が大きければ美味しい物をもっともっと食べられるのに、って
いつも言っていたつん太のことだから
たーしゃさんのように、あるいはみのくまさんちのヒロさんのように
大きな大きなぬいぐるみに生まれ変わるかもしれない。
でも、いつでも、どこにでもお出かけのできる小さな体が自慢だったつん太。
やっぱりポケットに入る小さなぬいぐるみに魂を滑り込ませるかな。
だったら、もう2度とその姿を見失わずに済むように
キーホルダーの付いたぬいぐるみになってきて欲しい。
かばんにぶら下がって、一緒にいっぱいいっぱいお出かけしよう。
次に行くつもりだったBig Bend。去年行き損ねたナイアガラ。
グランドキャニオン、ニューヨーク、キーウェスト、コロラドロッキー…
もっともっと、いままでよりずっとずっとたくさんの思い出を
もう1度、一緒に作ろうよ。
つん太、だから、お願いだから、私の手の中に帰って来て欲しい。


例えどんな大きな体に細い目、おちょぼ口、長い毛足の体になっていても
そこにお前の魂が宿っているのなら
私は絶対に絶対にほかのぬいぐるみと見分けることができるから。
必ず、この家に連れ帰るから。
お前と色が、大きさが、顔の造作が似ているだけのぬいぐるみを
お前のかわりに連れて来ることなんか、しないよ。
本当にお前が戻ってくるまで
いつまでだって待ってるよ。本当だよ。

つん太、大好きだよ。





つん太がポケットから出て町を歩くとき、つん太の定位置は私の左の掌の中。
利き手の右手を空けておきたいから、自然とそうなる。
前方にゴミ箱があると、私は空いている右の手でポケットからゴミを取り出す。
あめの包み紙、要らないレシート、要らないメモ用紙。
ゴミ箱の蓋を開けるのはつん太のいない、利き手の右手。
ゴミを小指と薬指と中指で掌にゴミを抱き込んで、残った2本の指でゴミ箱の蓋を引く。
右手はゴミ箱の蓋を引いているから、ゴミ箱に物を放り込むのは左手の仕事。
左手には、つん太。
…いったい何度、危ない目に遭わせただろう。
あるいは、手洗いで。
アメリカの水洗便器、水流が強すぎるのか何なのか
便座に水滴が跳ねていることが珍しくない。
だから使う前に、トイレットペーパーで便座をぬぐってやらねばならない。
ちぎった紙を持って便器の上にかがみこむと
ポケットからつん太が飛び出し、便所の床に、便器の中に、落ちそうになる。
たいていは手洗いに行く前につん太を夫に託すのだけれど
夫がいないときには、つん太に鞄の中に入ってもらう。
用を済ませて、お店で買い物。
レジで財布を出すとき、つん太は財布に引きずられて外に落ちてしまう。
品物とお金に気を取られてるから、つん太に気付かないことが多くて
これまた、随分危ない思いを重ねてきた。
つん太がポケットの入ったまま、洗濯機を回しかけたことが何度も。
融けたチョコレートの海に、生クリームの山に、べちゃっとくっつきそうになったことも。
そうでなくても十余年のあいだ構われ過ぎて、愛され過ぎて
背中が無残にボロボロになっていたつん太に
「もう危ないから外出はやめよう。家で大人しく机に座ってようよ」と提案したのに
つん太、言うことを聞かなかった。
「どんなに危険がいっぱいでも、お外に行っておいしい物を食べたい。
たくさんの風景を見たい。
それでくたびれて体を無くすなら、ぼくは本望なの」
そう言って、勝手にポケットに飛び込んで来てしまうつん太。
お外が好きだったつん太。旅行が大好きだったつん太。
フランの美味しかったメキシコへの旅立ちは、つん太の願うところだっただろう。



甘い物のことしか頭に無くて
だから心も甘ったれで
皆さんに迷惑ばっかりかけてきたつん太だけれど
私にとっては、かけがえの無い親友でした。
つん太と仲良くしてくれた皆さん、ありがとうございました。
心の片隅にでも、つん太のことをとどめて置いて頂けたなら
私は幸せです。
いつの日か、つん太はきっと私の元に帰ってきてくれるから
皆さん、どうかまた、遊んでやって下さいね。

2002年1月3日 由里


いつか、きっとまた会おうね!

つん太が残した制作中のページ、
書きかけの文章だから誤変換もそのままだし
文章自体、変なところもあるけれど
手を加えず、そのままUPします。
こんな未完成稿をさらされちゃって
つん太、不本意かな… ごめん。
つん太の歳時記・秋(文責・つん太)
つん太が使うつもりで用意していた写真に
由里が簡単なメモを添えました。
(一部、由里が加工した写真もあります)
ご覧いただけたら嬉しいです。
つん太のダラス近郊の旅(文責・由里)
つん太の甘味帳・後拾遺集(文責・由里)
つん太の歳時記・冬(文責・由里)
そして、つん太の最後の旅の記録。
写真を選び、加工し、文を添えたは全て由里です。
つん太の最後の旅の記録(文責・由里)






つん太の監督不行き届きに関するお叱り、
受けるのは当然のことと思うので
談話室・メールアドレス 共に残しておきます。
私からは、お返事、できないかもしれません。
ごめんなさい。
でも、つらいけど、全部読みます。
ありがとう。 由里

つん太の談話室
メールはこちら

ぼちぼちと、日々の記録など書き始めました。

大切なお知らせ。

当分の間、こちらのサイトの管理は充分に行き届かなくなります。
万が一にも悪い悪戯などされて
皆さんにご迷惑をおかけしては申し訳が無いので
リンクのページは閉じさせていただきました。
ごめんなさい。
「談話室」の書き込みのメールアドレス・URLも
削除して欲しいという方がいらっしゃいましたら
掲示板かメールでご連絡を下さい。

また、このページにリンクして下さっていた皆さん、
どうぞ、いつでも、リンクは外してくださって構いません。
つん太は今はいないのだから。
いずれ、近いうちにサイト休止も考えています。
つん太が帰ってくる日まで。

本来ならば皆さんに私から挨拶に行かなければいけないことですが
今は、これでご勘弁ください。

由里

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